小麦栽培に懸ける十勝の「チホク会」の生産者の想いにふれて

Dec 29 , 2020

小麦栽培に懸ける十勝の「チホク会」の生産者の想いにふれて

国内最大の小麦の産地、北海道。

なかでも北海道十勝地方は、広大な土地と冷涼な気候のもとで、量・質ともに優れた生産性を誇っています。

しかし、十勝産小麦の価値が認められ重宝されるようになったのは、北海道開拓の歴史から見れば最近のことです。

生産者の方々によれば、元々、小麦は小豆や大豆を主として栽培する際の輪作体系の作物の1つという位置づけ。北海道産小麦は、グルテンの力が不足していたこともあり、外国産の小麦粉に混ぜて使うという用途しかなかったと言います。

転機が訪れるのは「ゆめちから」などの高たんぱく小麦の登場です。品種開発に成功し、もちもちと弾力のある「超強力粉」を作れるようになったことで、十勝産小麦100%の小麦粉の可能性が飛躍的に高まり、製パンや中華麺、パスタなどの製造に使われるようになりました。

「ゆめちから」は秋まき小麦。9月下旬に植えられ、7月頃に収穫を迎えます。

  

 秋まき小麦は寒さにあたることで穂が実ります。5℃以下になって冬眠するまでに、適度に根を張り、分けつする必要があります。植えるタイミングや、タネを播く間隔や深さを誤れば、うまく生育しません。撒き方が浅すぎれば冬の間にしばれて根が枯れる恐れがあり、深すぎればタネからの栄養分が葉先に十分行き渡らないからです。

広大な土地を相手にした一回勝負、繊細な作業の繰り返しです。

美味しい小麦は、生産者の方々が手塩をかけて大切に「育てた」産物。同時に、自然のもたらす恵みでもあります。

 

「ちゃんと雪が降るだろうか?」(雪は冬眠時に布団の役割を果たします)

「台風で作物がやられないだろうか?」

 

最も神経を使うのは収穫時の天候です。

収穫直前に雨が降り、穂発芽してしまうと、小麦粉の質が落ちてしまいます。そうなる前に収穫しなければ、全ての努力が無駄になりかねない。けれど、一度に収穫できるのは乾燥機に入る分だけ。天候と生育状況、乾燥機の容量を見極めながらの収穫作業は多忙を極めます。

こうして全ての作業を終えた後、初めてその年の小麦の出来栄えがわかります。

 

「豊作だと思っていたけれど、思ったような収量が得られなかった。」

「今年は期待以上に美味しい小麦ができた。」

 

結果は最後までわかりません。

 

「人事を尽くして天命を待つ。」

この古いことわざは、彼らの仕事だけでなく、生き方を表す言葉だと感じます。

時には立ち直れないと思われるような試練に直面しながら、何度もそれを乗り越え、作物を育て続ける。生産者の方々の勤勉さや大胆さ、おおらかさ、強靭なハートに驚かされます。

 

クアリタが小麦粉を購入している山本忠信商店(通称:ヤマチュウ)は、「チホク会」という生産者グループと契約し、「チホク会産100%」の小麦を音更町で製粉しています。

  

チホク会の会長であるファームタキモト(清水町)の水野正樹さんは、4人で広大な農地を管理しています。小麦は「きたほなみ」「ゆめちから」「みのりのちから」を、そのほか小豆や大豆、ビートも栽培しています。

ドローンなどの技術を活用しつつ、歩いて雑草を取り、目で見て作物の状態を判断し、出来るだけ農薬を使わないように、そして最適なタイミングで肥料をやるようにしているそうです。肥料は牧場に提供した寝わらを回収し、何度も返して発酵を促したものを使用します。

地域の畜産家と協力し、自然のものを循環させ、土づくりに生かしています。

ファームタキモトは、十勝地方で自前の小麦の乾燥機を持った最初の農家の1つです。

小麦は収穫後すぐ乾燥させなければなりません。従来は収穫後の小麦を他社へ委託乾燥していました。30年ほど前、ファームタキモトでは、自分の倉庫に乾燥機を4機設置。以来、少しずつ台数を増やし、自分たちで乾燥させた小麦をヤマチュウに出荷しています。自社で小麦を乾燥させて出荷できるようになったことは、利益率を上げるだけでなく、希少な品種の出荷も可能にしました。

  

芽室町にある鳥本農場の鳥本孟宏(たかひろ)さんもチホク会のメンバー。鳥本さんは「きたほなみ」「ゆめちから」のほか、「キタノカオリ」を栽培する数少ない生産者の1人です。鳥本農場も自社で乾燥させてヤマチュウに出荷しています。 

キタノカオリは、非常に味が良く、パンを焼き上げると別格の香りと甘みがします。根強いファンが多い、とても需要のある品種です。しかし、収穫期に雨が降ると「穂発芽」をするリスクが高いため、扱いが難しく、年々作付面積が減少しています。

そんな状況でも、鳥本さんは「求められるものに応えたい」と、キタノカオリを育てています。

「キタノカオリでパンを作りたい」という人たちに小麦を届け、「美味しい」という感動を味わってもらえるなら、リスクをとって育てる価値があると言います。

希少価値の高いキタノカオリ。生産者の方々の苦労や情熱に触れると、少しも無駄にはできない、もっと美味しいものを作りたいと思わずにはいられません。

チホク会は1990年に15名の生産者によって設立され、現在会員数は約300名(2020年現在)に増えました。

先に紹介したファームタキモトでは、今年からチホク会会長の水野さんの息子さんも一緒に働くようになったそうです。水野さん親子が一緒に畑で働くということは、この仕事にやりがいがあることを少なからず示していると思います。

小麦を育てる人たちがプライドを持って生き生きと仕事をしている。それがチホク会産小麦の美味しさの根底にあります。

チホク会の生産者やヤマチュウの皆さんの、仕事に対する姿勢や人との繋がりを大切にする姿に触れると、今まで直感的に感じていた「ヤマチュウのチホク会産小麦」が放つ魅力の理由が少しずつ分かってきた気がします。

 

作る人がいて、食べたいと思う人がいて、それらをつなぎ、加工して販売する人がいる。

それぞれの立場の人たちの思いが繋がって、循環して、この小麦を小麦たらしめているのだと思います。

パンを作る立場で、自分たちには何ができるだろうか。さらに美味しいパンを届けるべく挑戦を続けたいと、気持ちを新たにしています。

 

株式会社山本忠信商店のウェブサイトは「こちら